子どもの発達検査や診断について 保護者が知っておくべき基本的な知識と活用法
子どもの発達が気になったとき、発達検査や診断について知りたい保護者の方へ
お子さまの成長を日々見守る中で、「うちの子、もしかしたら少し気になることがあるかもしれない」「他の子と比べてどうなのだろう」と、発達について漠然とした不安を感じることがあるかもしれません。子どもの発達は一人ひとり異なり、多様な道のりをたどります。もし、お子さまの発達についてより深く理解したい、あるいは適切なサポートの方法を知りたいとお考えであれば、発達検査や診断がその手助けとなる場合があります。
発達検査や診断は、決して「問題がある」と決めつけるためのものではありません。お子さまの特性や得意なこと、苦手なことを客観的に理解し、その子らしい成長を促すための具体的な方法を見つけるための一つの手がかりです。この記事では、発達検査や診断について保護者の方が知っておくべき基本的な知識と、検査結果をその後の子育てや学校との連携にどう活用できるのかについてお伝えします。
発達検査・診断とは何か?その目的と種類
発達検査や診断は、お子さまの発達状況を様々な角度から評価し、その特性や状態を把握するための専門的なプロセスです。その主な目的は、お子さまの認知能力、言語能力、運動能力、社会性、適応能力などを多角的に評価し、発達上の課題や強みを理解することにあります。
検査の種類は多岐にわたりますが、代表的なものとしては、以下のようなものがあります。
- 知能検査: お子さまの全体的な知的な発達水準や、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度といった認知能力の偏りを評価します。(例: WISC-IV/V、KABC-IIなど)
- 発達検査: 年齢に応じた発達の進捗や特性を広範に評価します。運動、認知、言語、社会性などの側面を調べます。(例: 新版K式発達検査、丹内・岡田式乳幼児発達診断法など)
- 行動評価尺度: 保護者や先生からの聞き取りや観察に基づき、お子さまの行動特性(衝動性、多動性、不注意、対人関係など)を評価します。(例: Conners 3、AQ、PARSなど)
- 医学的検査: 必要に応じて、脳波検査や遺伝子検査などが行われることもあります。
これらの検査は単独で行われることもありますが、複数組み合わせて実施されることが一般的です。専門家(医師、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士など)がお子さまの様子を観察したり、保護者から生育歴や日頃の様子を聞き取ったりする問診と合わせて総合的に評価されます。
「診断」は、これらの検査結果や問診、観察に基づいて、医師が医学的な判断として下すものです。「発達障害」という言葉を聞く機会も増えましたが、診断名はあくまでお子さまの特性を理解し、適切な支援につなげるための一つの手がかりと捉えることが重要です。
検査を受けるメリット・デメリット
発達検査や診断を受けることには、いくつかのメリットとデメリットが考えられます。
メリット
- お子さまの特性を客観的に理解できる: 「なんとなく気になる」という漠然とした不安が、具体的なデータに基づいた理解に繋がります。お子さまの得意・不得意が明確になり、個性として受け止めやすくなります。
- 適切なサポート方法が見つかる: 検査結果に基づいて、お子さまに合った具体的な学習方法、関わり方、環境調整などのヒントが得られます。
- 学校や関係機関との連携がスムーズになる: 検査結果や診断名を共有することで、学校の先生や支援機関がお子さまの特性を理解しやすくなり、より効果的な支援計画を立てる上で役立ちます。
- 利用できる支援制度へのアクセス: 診断があることで、放課後等デイサービスや療育施設、特別支援教育に関する制度など、公的な支援やサービスを利用するための手続きが進めやすくなる場合があります。
- 保護者の安心感につながる: 不安の原因が明確になることで、一人で悩まずに済むようになり、今後の見通しを持って子育てに取り組めるようになります。
デメリット
- 時間的・費用的な負担: 検査を受けるための予約、実際の検査、結果説明などで時間が必要です。また、医療機関や実施機関によっては費用が発生します(医療保険や公的支援が適用される場合もあります)。
- 診断名への抵抗感や戸惑い: 診断名がつくことに対して、保護者自身や周囲の受け止め方に戸惑いを感じる場合があります。診断名がレッテル貼りのように感じられたり、「障害」という言葉への抵抗感から落ち込んだりすることもあるかもしれません。
- 検査結果の解釈の難しさ: 専門的な結果をどう読み解き、日常生活にどう活かすかについて、理解や整理に時間が必要な場合があります。
- 診断がつきにくいケースもある: 発達の特性は連続的であり、検査結果だけでは明確な診断に至らない場合や、時間が経ってから特性が顕著になることもあります。
検査を受けるかどうかは、保護者の方がお子さまのために何を一番知りたいか、どうしたいかをじっくり考え、メリット・デメリットを踏まえて判断することが大切です。
発達検査・診断を受けるまでの流れ
お子さまの発達について相談したい、検査を受けたいと思った場合、いくつかの窓口があります。
- 身近な相談先:
- かかりつけの小児科医: 日頃からお子さまの成長を見ている医師に相談してみましょう。専門機関への紹介状を書いてもらえることがあります。
- 地域の保健センター/子育て支援センター: 保健師さんや子育て支援の専門家が相談に乗ってくれます。集団での発達健診とは別に、個別の相談に応じてくれる場合もあります。
- 幼稚園・保育園・小学校の先生/スクールカウンセラー: 日頃のお子さまの様子を共有し、園や学校での専門家(特別支援コーディネーターなど)に相談できるか聞いてみましょう。
- 専門機関:
- 児童精神科、小児神経科などの専門外来: 医師による診察や診断を受けることができます。検査を行う場合は、予約が取りにくいこともあります。
- 大学病院の発達外来: 高度な検査や専門的な視点からの診断・評価が期待できますが、紹介状が必要な場合が多く、予約も取りにくい傾向があります。
- 児童相談所: 18歳未満の子どもに関する様々な相談に応じてくれます。心理士などによる発達検査や相談が可能です。
- 発達障害者支援センター: 発達に関する相談や情報提供を行っています。適切な相談先を紹介してくれることもあります。
- 民間の発達支援センターやクリニック: 専門的な検査や支援プログラムを提供している場合もありますが、費用は全額自己負担となることが多いです。
まずは身近な窓口に相談し、必要に応じて専門機関を紹介してもらうのがスムーズな流れです。相談する際は、お子さまの具体的な気になる様子や、いつ頃から気になっているかなどをメモしておくと伝えやすくなります。
検査結果の読み解き方と活用法
検査結果が出たら、専門家から詳しい説明を受けます。結果報告書には数値やグラフなどが記載されていることが多く、初めて見る場合は分かりにくいかもしれません。不明な点は遠慮せずに質問しましょう。
検査結果を読み解く上で大切なのは、数値だけにとらわれないことです。検査はあくまで、ある時点での、特定の状況下でのお子さまの一面を捉えたものです。結果に表れた「得意」「苦手」は、お子さまを理解するためのヒントであり、その全てではありません。結果を参考にしながら、日頃のお子さまの様子と照らし合わせて総合的に理解しようとする姿勢が重要です。
検査結果をその後の子育てや支援に活用するためには、以下の点を意識してみましょう。
- お子さまへの肯定的な理解につなげる: 検査で示された「苦手」な部分は、「努力が足りない」のではなく、その特性によるものだと理解できます。また、「得意」な部分や強みも明確になるため、そこを伸ばすためのサポートを考えやすくなります。
- 家庭での具体的な関わり方を工夫する: 検査結果で分かったお子さまの認知特性や感覚特性に合わせて、声かけの仕方、指示の出し方、環境の整え方などを調整してみましょう。例えば、聴覚情報より視覚情報で理解しやすいタイプであれば、言葉での説明だけでなく、絵や文字、実物などを活用するなどの工夫が考えられます。
- 学校との連携に生かす: 検査結果報告書や専門家からの意見書などを学校に提出し、担任の先生や特別支援コーディネーターと情報共有しましょう。学校側も、お子さまの特性に配慮した授業の進め方や声かけ、教室環境の調整などを検討しやすくなります。個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成する上での重要な資料となります。
- 利用できる支援サービスを検討する: 検査結果や診断に基づき、放課後等デイサービスでの療育や、地域の相談窓口、専門機関でのペアレントトレーニングなど、お子さまや保護者が必要とする支援サービスの情報収集や利用を検討できます。
- 診断名に囚われすぎない: 診断名は、お子さまの特性を理解し、適切な支援につなげるための「ツール」です。診断名自体がお子さまの全てを定義するものではありません。診断があってもなくても、目の前のお子さまをありのままに理解し、愛情を持って関わっていくことが最も大切です。
保護者が心構えとして持っておきたいこと
もし、お子さまに発達の特性があることが分かったとしても、それは決して保護者の方の育て方が悪かったわけではありません。お子さまが生まれ持った特性であり、誰のせいでもありません。
発達検査や診断を受けるプロセスは、保護者の方にとっても精神的な負担を伴うことがあります。結果を受けて落ち込んだり、今後のことが不安になったりするのは自然なことです。しかし、お子さまの特性を早く理解することは、その後の適切なサポートや成長にとって非常に大きなプラスとなります。
お子さまの「できないこと」に目が向きがちになるかもしれませんが、検査で明らかになった「得意なこと」「強み」にもぜひ目を向け、積極的に褒めて伸ばしてあげてください。そして、保護者の方自身も一人で抱え込まず、パートナーや家族、友人、地域の相談窓口など、頼れる存在に話をしてみてください。
お子さまの多様な発達を理解し、受け入れ、その子に合った形で成長をサポートしていく道のりは、時に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、専門的な視点からの情報を活用しながら、お子さまとの向き合い方を工夫することで、必ず道は開けます。この記事が、お子さまの発達について考え始めた保護者の方の一助となれば幸いです。