我が子の困り感を正確に理解する 家庭や学校での効果的な子どもの観察方法
受け入れる教育の第一歩は、子どもの多様な姿を理解することから始まります。子どもが見せる「困った」と感じるような行動や言動は、多くの場合、子ども自身が何か特定の状況や刺激に対して困り感を持っているサインです。この困り感を正確に理解するためには、日々の丁寧な観察が非常に重要になります。単に表面的な行動を捉えるだけでなく、その行動がどのような状況で起こり、その前後に何があったのか、子どもの様子はどうだったのかといった具体的な情報を収集することが、子どもへの適切なサポートへとつながります。
この記事では、保護者や教育実践者の皆様が、子どもの困り感をより深く理解するために、家庭や学校で実践できる効果的な観察方法と、その視点、記録の仕方についてご紹介します。
なぜ子どもの観察が重要なのでしょうか
子どもの行動は、その子の発達段階や、その時に置かれている環境、内面的な状態など、様々な要因が複雑に影響し合って現れます。特に、特定の行動を繰り返したり、通常とは異なる反応を示したりする場合、それは子どもが何らかの困難(困り感)を抱えている可能性を示唆しています。
観察が重要な理由は以下の通りです。
- 子どもの内面や背景にある理由の理解: 表面的な行動の裏に隠された、子どもの感情、思考、意図、または特定の刺激に対する過敏さなどを理解する手がかりとなります。
- 適切なサポート方法の検討: 困り感の具体的な原因が分かれば、それに合わせた環境調整や声かけ、必要なスキルを育むための具体的なサポート方法を検討できます。
- 主観から客観へ: 「この子はいつもこうだ」といった主観的な印象だけでなく、具体的な状況や頻度を記録することで、より客観的に子どもの状態を把握できます。
- 成長や変化の把握: 継続的な観察は、子どもの成長に伴う変化や、特定のサポート方法の効果を把握するためにも役立ちます。
効果的な観察のための基本的な視点
観察を行う際には、以下の点を意識すると、より具体的な情報を得やすくなります。
- いつ(When): その行動は、一日のうちどの時間帯に起こりやすいでしょうか。特定の活動の前や後でしょうか。
- どこで(Where): その行動は、特定の場所(教室、体育館、自宅のリビング、特定の部屋など)でのみ起こるでしょうか。
- 誰といる時(Who): その行動は、特定の人物(特定の友達、先生、家族など)といる時によく見られるでしょうか。一人でいる時はどうでしょうか。
- 何をしていた時(What activity): その行動は、どのような活動をしている時に起こったでしょうか(例:静かに座って話を聞く時間、体を動かす時間、自由時間、課題に取り組む時など)。
- 具体的な行動(What behavior): どのような行動や言動が見られたでしょうか。できるだけ具体的に描写します(例:「落ち着きがない」ではなく「座席から立ち上がって歩き回った」「指先をじっと見ていた」など)。
- その前後の状況(Antecedent & Consequence): その行動が起こる直前に何がありましたか?その行動の後、子どもや周囲の状況はどうなりましたか?(例:課題を提示された直後に立ち上がった。立ち上がった後、先生が注意しに来た、など)。
- 子どもの様子(Appearance/Affect): 行動している時の子どもの表情、声のトーン、体の様子はどうでしたか?(例:顔がこわばっていた、声が上ずっていた、体を揺らしていたなど)。
これらの視点、「5W1H+様子の把握」を意識することで、行動と状況との関連性が見えてきやすくなります。
具体的な観察のポイント例
以下に、場面別の観察ポイントの例を挙げます。
- 学習場面:
- 授業中、指示を聞いている時の様子。どのくらいの時間集中できているか。
- 課題に取り組む際に、どこでつまずきやすいか。集中が途切れるのはどんな時か。
- 難しい問題や量の多い課題を見た時の反応。
- 読み書き計算など、特定の学習への取り組み方や進捗。
- 対人関係の場面:
- 友達との遊び方や関わり方。どのように誘ったり誘われたりするか。
- 自分の要求や気持ちをどのように伝えるか。
- 意見の衝突やトラブルが起こった時の対応。
- 集団での活動への参加の仕方。
- 特定の場面や刺激への反応:
- 大きな音や特定の感触、光などへの反応。
- 急な予定変更や初めての場所での様子。
- 休み時間や給食時間など、比較的自由な時間の過ごし方。
- 朝の登校時や集団で移動する際など、移行場面での様子。
これらのポイントに加えて、お子さん特有の気になる行動があれば、それを重点的に観察します。
観察を記録する方法
観察した内容は、記憶に頼るだけでなく、簡単なメモでも良いので記録することをお勧めします。記録することで、後で見返した時に状況を客観的に把握でき、特定のパターンや傾向に気づきやすくなります。
記録の方法は様々ですが、以下のような形式が考えられます。
- 簡単なメモ: 日付、時間、場所、具体的な行動、その前後の状況を箇条書きで記録します。
- チェックリスト: 事前に気になる行動や状況のリストを作成しておき、見られたらチェックを入れる形式です。
- 定型的な記録シート: 日付、時間、場所、活動、具体的な行動、きっかけ、結果、子どもの様子の項目を設けたシートを作成し、記入します。
記録する際は、「〜だと思った」「〜に違いない」といった推測や感情的な評価ではなく、「〜した」「〜と言った」「〜な表情だった」といった客観的な事実のみを記述することが重要です。例えば、「A君に意地悪をした」ではなく、「A君が持っていたおもちゃを黙って取り上げた」と記録します。
観察結果の活用方法
記録した観察結果は、様々な場面で活用できます。
- 家庭内での対応: 子どもの困り感の背景を理解し、家庭での声かけや環境調整に活かすことができます。
- 学校との連携: 具体的な観察記録は、担任の先生やスクールカウンセラー、特別支援コーディネーター等に子どもの様子を伝える際に、非常に役立ちます。抽象的な「落ち着きがない」ではなく、「特定の授業で、先生が話し始めてから5分後に立ち上がることが週に3回あった」のように具体的に伝えられます。
- 専門機関への相談: 医師や心理士、療育施設の専門家などに相談する際に、具体的な情報を提供でき、適切なアセスメントや支援計画につながりやすくなります。
- 子どもの成長の確認: 定期的に観察記録を見返すことで、以前と比較してできるようになったことや、困り感の現れ方が変化していることに気づくことができます。
焦らず、継続的に行うこと
子どもの困り感を理解するための観察は、一度行えば終わりというものではありません。子どもの発達は日々変化し、困り感の現れ方も状況によって異なります。焦らず、継続的に、お子さんのペースに合わせて観察を続けていくことが大切です。
観察を通して子どもの多様なニーズを理解することは、受け入れる教育を家庭や学校で実践するための重要なステップです。子どもの困り感のサインを見逃さず、温かく見守りながら、具体的なサポートにつなげていきましょう。