自分の特性を知ることは強みになる 発達特性のある子の自己理解を育む家庭・学校での関わり方
はじめに:なぜ子どもの自己理解が大切なのか
子育てや教育の現場では、子どもの多様なニーズへの対応が求められています。特に、発達に特性のあるお子さんの場合、特定の学習や行動パターンにおいて困難を抱えることがあります。このような困難に寄り添いサポートすることはもちろん重要ですが、お子さん自身が自分の特性を理解し、それとの向き合い方を知ることも、成長していく上で非常に大切なステップとなります。
子ども自身が自分の特性を知ることは、決してネガティブなことではありません。むしろ、自分の「得意なこと」や「苦手なこと」、どのような状況で力を発揮できるのか、あるいはどのような時に困りやすいのかを理解することは、困難に対処するための戦略を立てたり、自分の強みを活かしたりすることにつながります。これは、自己肯定感を育み、将来にわたって自分らしく生きていくための土台となります。
この記事では、発達に特性のあるお子さんが自己理解を深めることの重要性をお伝えし、保護者や教育者が家庭や学校でどのように関われば、お子さんの自己理解をサポートできるのか、具体的な方法について解説します。
子どもの自己理解とは?発達段階に応じた考え方
子どもの自己理解とは、単に自分の「診断名」を知ることではありません。それは、「自分は物事をじっくり考えるのが好きだ」「自分は大きな音が苦手だ」「自分は細かい作業が得意だ」といった、具体的な行動や感覚、感情のパターンを通して、自分の内面や特性を認識していくプロセスです。
この自己理解は、子どもの発達段階によって深まり方が異なります。幼い頃は、自分の行動の結果や感覚への気づき(例:「これをすると楽しい」「これは嫌だ」)が中心です。小学生中学年以降になると、自分の特性を少し抽象的に理解し始め、「自分はこういうタイプかもしれない」と認識できるようになります。思春期以降は、自己の特性をアイデンティティの一部として捉え、将来と結びつけて考えるようになります。
重要なのは、子どもに一方的に「あなたはこうだ」と伝えるのではなく、子ども自身の気づきや感じ方を尊重しながら、対話を通して一緒に自己理解を深めていくという姿勢です。抽象的な説明よりも、具体的な経験やエピソードを通して伝える方が、子どもにとってはるかに理解しやすくなります。
自己理解がもたらす力:困難への対処とストレングスの発見
子どもが自分の特性を理解することは、様々な良い影響をもたらします。
困難へのより良い対処
自分の苦手なことや、困りやすい状況を知ることで、事前に準備をしたり、困った時に周囲に助けを求めたりすることができるようになります。例えば、特定の音に過敏な子が「自分は大きな音が苦手だから、運動会ではイヤーマフを使ってみよう」と自分で対策を考えることができるかもしれません。見通しが立たないと不安になる子が、「予定が変わる時は、前もって教えてもらうと安心できる」と伝えられるようになるかもしれません。このように、自己理解は主体的な問題解決能力を育みます。
自分の強みの発見と活用
自己理解は、苦手だけでなく、自分の得意なことや興味関心といった「ストレングス(強み)」に気づくことでもあります。特定のことに深く集中できる、細かい部分によく気がつく、独自の視点を持っているなど、発達特性は強みと表裏一体であることが多くあります。子どもが自分の強みを認識し、「自分にはこんな良いところがあるんだ」と感じることは、自己肯定感を高め、自信を持って様々なことに挑戦する意欲につながります。
家庭でできる具体的な自己理解サポート
家庭は、子どもが最も安心して自分自身を探求できる場所です。保護者ができる具体的なサポートをいくつかご紹介します。
1. 子どもの特性を事実として、肯定的に伝える
子どもの行動や困り事に対して、「なぜできないの?」「ちゃんとしなさい」と叱るのではなく、その行動の背景にある特性を「〜という傾向があるね」「〜な時、困りやすいね」と、良い悪いの評価を挟まず事実として伝えます。そして、「でも、こんな時は集中できるね」「こんな工夫をすると、うまくいくね」といった肯定的な側面や対処法を一緒に提示することが大切です。「あなたは物事を深く考える力があるね」「あなたは他の人が気づかないことに気がつくね」など、強みとなる特性に焦点を当てることも意識しましょう。
2. 子どもの体験や感情を言葉にする手伝いをする
子どもは自分の内面を言葉で表現するのが苦手な場合があります。保護者が「大きな音がして、びっくりしたんだね」「これがうまくいかなくて、悔しかったんだね」のように、子どもの行動や表情から感情や状況を推測し、言葉にして伝えることで、子どもは自分の内面を客観的に認識する手がかりを得ます。絵や写真、具体的なエピソードなどを活用して、視覚的に伝えることも有効です。
3. 「好き」や「得意」を一緒に見つけ、認める
子どもが何に興味を持ち、どんな時に楽しそうにしているか、どんな活動で力を発揮するかを注意深く観察し、それを具体的に言葉にして認めます。「この図鑑、何時間でも見ていられるくらい好きだね」「ブロックでいつも想像もしないものを作るね、すごい集中力だね」など、子どもの「好き」や「得意」を具体的に褒め、それを活かせる機会を提供します。
4. 安心できる環境で、困り事について話し合う
困った時だけ特性の話をするのではなく、普段から安心して何でも話せる親子関係を築くことが重要です。子どもがリラックスしている時に、「最近、学校で困っていることある?」「どういう時が一番難しいと感じる?」など、子どもが感じている困難について、責めることなく聞き、一緒に解決策を考える姿勢を示します。
5. ペアレント・トレーニングなどのプログラム活用
ペアレント・トレーニング(ペアトレ)などのプログラムでは、子どもの行動を理解し、ポジティブな関わり方を学ぶことができます。これらの知識は、子どもに自分の特性を伝える際の声かけやアプローチに役立ちます。
学校との連携:共通理解とサポート
学校は、家庭とは異なる集団生活の場であり、子どもが自分の特性をより多様な側面から経験する場所です。学校との連携は、子どもの自己理解をサポートする上で欠かせません。
1. 学校での様子を共有してもらう
担任の先生や特別支援教育コーディネーターと定期的に情報交換を行い、学校での子どもの様子(学習面、行動面、友達関係、得意なこと、困っていることなど)を具体的に共有してもらいましょう。家庭での様子と照らし合わせることで、より多角的に子どもの特性を理解することができます。
2. 子どもへの伝え方について学校と共通理解を持つ
家庭でどのような言葉遣いやアプローチで子どもの特性を伝えているかを学校と共有し、学校でも同様の姿勢で子どもと関わってもらえるよう相談します。学校の先生から「あなたの得意なところだよ」「こんな工夫をすると大丈夫だよ」と伝えてもらうことで、子どもは自信を持って自分の特性と向き合えるようになります。
3. 個別支援計画や合理的配慮の話し合いに子どもも参加する
お子さんの状態や年齢にもよりますが、「個別支援計画」や「合理的配慮」について話し合う場に、お子さん自身も可能な範囲で参加することを検討します。自分がどのようなサポートを必要としているのか、どのように伝えれば良いのかを学ぶ機会になります。話し合いの場で難しい場合は、後で子どもに内容を分かりやすく伝える時間を持つことも大切です。
子ども自身への伝え方のポイント
子どもに直接、自分の特性について伝える際は、特に慎重な配慮が必要です。
- 肯定的な言葉を選ぶ: 「あなたは〇〇が苦手」だけでなく、「〇〇は難しいことがあるけれど、△△は得意だね」「こんな工夫をすると、苦手なこともやりやすくなるよ」のように、ポジティブな側面や解決策とセットで伝えます。
- 「病気」や「欠陥」ではないことを明確に伝える: 発達特性は、脳の機能の違いによる「ものの感じ方や考え方のタイプ」であり、治すべき病気や悪いものではないことを伝えます。多様な人がいるように、脳のタイプも多様であることを伝えても良いでしょう。
- 具体的なエピソードを交える: 抽象的な説明は避け、「先週の体育で、大きな音がした時に耳を塞いでいたね。あなたは大きい音が少し苦手かもしれないね。」のように、具体的な出来事と結びつけて伝えます。
- 子どもの感じ方を聞く: 伝えるだけでなく、「これを聞いて、どう思った?」「何か困っていること、話したいことある?」と、子どもの気持ちや考えを聞き、受け止める時間を作ります。
まとめ:自己理解は自分らしく生きるための第一歩
発達に特性のあるお子さんが自分の特性を理解することは、困難を乗り越え、自分の強みを活かし、自分らしく自信を持って生きていくための大切なステップです。このプロセスは、一度に完了するものではなく、子どもの成長と共に深まっていくものです。
保護者や教育者は、子どものありのままを受け止め、否定せず、安全な関係性の中で、具体的な経験を通して自己理解をサポートしていく役割を担います。家庭と学校が連携し、子ども自身への伝え方を工夫することで、子どもは自分の特性を前向きに捉え、「自分はこれで大丈夫だ」「自分にはこんな良いところがある」と感じられるようになります。
子どもたちが多様な自分を受け入れ、それぞれの可能性を最大限に発揮できるよう、周囲の大人が根気強く、温かくサポートを続けていくことが何よりも重要です。